パリ音楽院の学生時代に作曲した、墨絵のような濃淡だけで端正に表したモノクロームなピアノ曲。それに様々な楽器の特徴的な音色で色彩感のみならず立体感すら生み出す、素晴らしいオーケストレーションをラヴェル自身で施したのは、その10年後のこと。
しかし1911年2月27日、英国マンチェスターで初演された時のガーディアン紙の批評は「素晴らしく美しい(most beautiful)。しかし、短いフレーズの中でのとらえどころのない、ともすれば凡庸で古典的なハーモニーは表現を抑え込み、せっかくの旋律の美しさを幾分か削り取っている。とてもこの作曲家の代表作とは言い難い」と。
将来、ラヴェルの作品の中でも最も愛される一曲になるこの曲の、古風な形式という鎧を纏った簡素な機智をこの批評家は洞察するには至らなかったようです。
ちょうど111年前の出来事。
【出演】中田昌樹(指揮者)
【演奏】モーリス・ラヴェル『亡き王女のためのパヴァーヌ』管弦楽版 指揮/レナード・スラットキン 演奏/フランス国立リヨン管弦楽団(配信期間:2022年2月26日〜3月25日)
ピアノ版 演奏/渡邊智道
イントロ&エンディング クロード・ドビュッシー『小さな黒人』 演奏/江澤隆行
【提供】笹川日仏財団